百名山の苗場山に湿原の花園を見に行った。苗場山の山頂は新潟県と長野県が分け合っている。長野県側からの登りは豪雪,秘境で名の知れた秋山郷からのルートがあるが,石打ICから苗場山をぐる〜と回らなければならないのでどうしてもアプローチが長くなる。で,湯沢ICからかぐら・みつまたスキー場の祓川ルートをとることにした。ここから5時間ほど登って頂上の苗場山頂ヒュッテで泊まる計画だ。
祓川ルートの出発点の湯沢町営駐車場を10時に出発できた。スキーリフトの脇を彩るヤナギランに見送られながら登ると和田小屋に着いた。ここからスキー場の脇を登っていくコースが始まる。入り口で登山者カードを書いて,さぁ行くぞ。
ブナ林の中を,岩がゴロゴロする路を登って行き,林がダケカンバに代わるころに六合目に到達した。それから,小さな湿原が見えてきて,新たな木道が整備された下の芝に到着した。ここまで1時間40分かかったがほぼ予定通りだ。ここでお握りと味噌汁のお昼をとることにした。インスタントながら味噌汁の鰹だしと塩味がとても旨い。
ヨツバヒヨドリに励まされながら,中の芝に到着した。ここまでが2時間45分ほど。盛りの過ぎたコバイケイソウを脇目に小さな湿地帯の木道をさらに15分ほど歩いて,上の芝に到着した。
昭和の初めにスキーで登頂し,苗場山を世に知らしめた某の顕彰の碑を過ぎる。祓川コースの最大の難所(?)である股すり岩をエンラコと乗り越えればもうすぐ神楽ヶ峰だ。
なだらかな路になると,タテヤマウツボグサ,イブキボウフウ,オニアザミ,ホソバコゴメグサなどいろいろな高山植物が増えてきた。それらを眺めるうちに神楽ヶ峰についた。
神楽ヶ峰からは,せっかく登ったのにもったいない,下りが始まる。途中に雷清水の水場があった。水の量は多く,とても冷たい。喉を潤して,頂上でのコーヒー用にと水筒を満たした。振り返ると,これからアタックする苗場山頂が霧の中に浮かんでいた。
降り立ったところはお花畑で,これまたいろいろな花が咲き乱れている。
ミヤマシャジン,キオン,タカネナデシコ,シモツケソウ。
ハクサンフウロ,イワオウギ,キンレイカ。そして,秋には赤い実を着けるナナカマドもこんな清楚な白い花を咲かせる。
オヤマリンドウ,トモエシオガマ,ヤマハハコ。猛毒を持つヤマトリカブトの濃い紫がやけに鮮やかだ。
やがて最後の登りの雲尾坂に取り付くことになった。時にはストックを相方に預けて,四つん這いになって登ること20分。
急に視界の上半分が空になった。真っ平らな苗場山の頂上の湿原だ。木道の先に今晩の宿の苗場山頂ヒュッテが見える。足下の木道の脇にはモウセンゴケだ。ワタスゲも我々の到着を迎えてくれる。
現在は休業中の遊仙閣の裏手に回って2145mの苗場山頂に立った。隣の苗場山頂ヒュッテに着いたのはちょうど15時だった。5時間を要したことになる。
チェックインを済ませてサンダルに履き替えて湿原のテラスでコーヒーブレイクとした。雷清水の冷水で淹れたコーヒーはインスタントとは思えないほど旨い。これくらいの高地ではクッキーの袋もバツンパツンに膨らんでいる。爽やかな風に揺れるワタスゲの向こうに見えるオオシラビソの木々の間の池塘の風景を見ながら至福の時間がゆったりと過ぎていく。
いったんヒュッテにもどってハイキングシューズに履き替えて目の前の湿原を散策した。花が終わって羽毛状になったチングルマ,ヤノネグサ(?),池塘を染めるウマスギゴケを眺めながらのゆったりとした気分での散策を味わった。
ヒュッテの夕食は定番(?)のカレーだった。こちらも定番のビールだ。何故か,我々の他に飲んでいるハイカーはいない。ご飯がとても旨く炊けていて思わずお代わりをしてしまった。
翌朝は早起きしてご来光を拝みに外に出た。今年初の日の出,初日の出かもしれない。
かしこまって朝食をイタダキマス。
身支度をして,今日はまず龍の峰下の湿原を訪ねることにした。オオシラビソの森の中の湿原だ。途中の苗場山神社で山行の無事を祈願した。森の中の湿原は我々を静かに待っていてくれた。
木道が途切れる辺りの龍の峰で引き返し,今度は秋山郷へ降りる路の途中の坪場の湿原を訪ねた。岩がゴロゴロしていてグジュグジュの泥で足場の悪い急坂を下っていくと,明るい湿原が目の前に現れた。そこのテラスで朝のコーヒーを堪能した。これまた至福の時間が過ごせた。
ふたたび苗場山頂ヒュッテに引き返した頃には晴れ渡っていた湿原は霧に包まれるようになっていた。
昨日登ってきた急峻な雲尾坂を足元に気をつけながら降りていくと,カミさんが「見て,見て」と岩の間の隙間を指さす。見れば,ヒカリゴケではないか。よくぞ見つけたものだ,と感心すると「昨晩のヒュッテでのVTRで知った」とのこと。さらにウメバチソウも見つけた。登ってくるときは難儀のあまり周りに眼が届かなかったのだが。
さっきまではあれほど晴れ渡っていた苗場山頂は霧に包まれている。雲尾坂が終わって再びお花畑でミヤマシャジンや少し開いたオヤマリンドウに無理矢理割り込んで蜜を吸う蜂を見ながら下っていった。
中の芝で軽い昼食をとった後はドンドンと下って霧で見通しの効かない和田小屋のスキー場についた。
往路は7.9kmで5時間05分,復路は13.3kmを6時間35分かけて歩いたことになった。
自分たちへのご褒美は,越後湯沢の町のヘギソバと駒子の湯の温泉であった。