先々週の山形・福島のさくら紀行では悲惨な目にあった。本来の目的の置賜さくら回廊は全くの蕾状態で,やむなく回った会津若松の鶴ヶ城のさくらもせいぜい2分咲きだった。鶴ヶ城に回るその途中で立ち寄った喜多方の道の駅・喜多の郷で仕込んだ喜多方市内のしだれ桜並木の情報が気にかかっていた。インフォメーションの係員に,20日以降に観光協会に電話で問い合わせたら良い,と勧められていた。例によってカミさんの希望で前夜に急遽,喜多方のしだれ桜並木を見に行こう,と言うことになった。インターネットで調べてみると,7分咲きの状態という。来年のさくらがあると思うなよ,との生き方ですぐに実行に移すことに…
常磐道・磐越道経由で喜多方に着いたのは10時を回っていた。喜多方商業高校跡地に車を停めて,折り畳み自転車のBD-1をセットしてスタートした。置賜さくら回廊では桜は咲いてないのに200円の駐車料を取られたが,ここ喜多方ではラッキーなことに無料であった。
お目当の桜は日中線跡しだれ桜並木だ。日中線とは1938〜1984年まで運行されていた旧国鉄の路線で,喜多方と熱塩(あつしお)を結ぶ11.6kmの路線だったそうだ。当初は5往復だったが1960年からは3往復とジリ貧となったと言う。日中線の名称は熱塩の日中温泉に因むそうだ。と,Wikipediaにある。その路線の跡地に3kmに渡ってしだれ桜の並木が設けれれていて,途中には日中線で使われた蒸気機関車が展示されている。そこは昭和63年に1kmほどの緑道公園として整備され,現在は3kmと延びており,旧熱塩駅まで延長するプロジェクトが立ち上がっているそうだ。
今日は平日であるがかなりの人混みだ。緑道公園は自転車・歩行者専用道路だが自転車でスイスイと走れるような状態ではない。乗り入れてみるとさすがのしだれ桜並木である。なるほど蒸気機関車が鎮座している。その前でモデルらしき女の子が目の前をホバリングするドローンと戯れる光景に出会った。パチリとやろうとしたら「お父さん,写真はちょっと」とポン引き風のお兄さんにチェックされた。肖像権の侵害ということなんだろうか? 喜多方市の宣伝ポスターか動画でも作っていたのか。
旧熱塩駅に向かってBD-1に乗ったり,押し歩きしていく。向こうに雪を頂いた山並みが見える。しだれ桜とのショットはうまく撮れない。
工場脇のソメイヨシノが満開だ。こんなにも密集したソメイヨシノは初めて見たかもしれない。
そろそろ並木も終点のようだ。カミさんはしだれ桜の中に入っての撮影に余念がない。緑道の真ん中に,見事なソメイヨシノが再び現れた。
終点からちょっと戻ったあたりで名物の喜多方ラーメンでお昼を取ることにした。煮干し出汁の縮れ麺の喜多方ラーメンは素朴な味ながらなかなか美味い。
もう20数年になるだろうか。九州から転勤してきたばかりの夏休みににテント,MTB,カヤックに犬二匹を連れて家族で磐梯高原でキャンプした。磐梯山に登ったり,小野川湖でカヤックを漕いだりした折に喜多方ラーメンを食べに喜多方に回ったことを思い出した。その日はとても暑い日で犬も熱い道路を歩くのを嫌がったね,とカミさんと当時を思い出しながら喜多方ラーメンを啜った。今日も初夏を思わせる陽気で,生ビールを飲まない手はない。自転車は酔いが醒めるまで押して歩けばいいのだ。
店員さんに聞いてみるとほまれ酒造はここから近いというので立ち寄ることにした。まずは売店でいくつかのオススメをテイスティングしてみる。普段は発泡酒ばかりで日本酒は滅多に飲むことはないが,雲嶺庵の白はことのほかに腑に染み渡った。で,これを息子のお土産と自宅用に買った。
大正7年の創業というほまれ酒造が昭和25年に造園した日本庭園の雲嶺庵を見て回ることができる。
再びしだれ桜並木に戻り,出発点と反対側を喜多方駅に向かってポタリングした。こちら側は人並みが少なく,雪山の見え方も綺麗だ。
やがて終点にたどり着いてしだれ桜並木は終わった。
喜多方駅から蔵の街を探索しに行く。
確かに蔵が多い街並みだ。煎餅屋の蔵では中学生が手焼き煎餅を体験していた。
蔵並みのはずれに甲斐本家蔵座敷があった。幕末に始めた酒屋がやがて味噌・醤油を醸造して財をなし,大正6年から7年を費やしてこの蔵座敷を作ったという国登録有形文化財だ。蔵は油煙をまぶした黒漆喰で塗り込められた重厚な風格を持っている。現在の費用に換算すると5億円を越すという。先ほどのほまれ酒造の雲嶺庵といい,大正初期の喜多方の繁栄ぶりがしのばれる。
ようやく探し当てたれんが染織工房は会津型染の蔵だ。ここでは型紙作り,型染め,機織りなどの体験ができるという。カミさんの顔がニコニコ顔に変わっていいく。秋にはこのあたりの作家の展示会があるとの情報を得てなにやら画策している様子が。
駐車場に戻りBD-1を畳んで温泉に浸かろうということになった。調べて見たところ先日の道の駅・喜多の郷がよかろうということになった。湯は茶褐色でヌルッとしていて,いかにもの温泉だ。桜並木散策・蔵めぐりの埃を洗い落としてさっぱりした後は,池の周りの桜を眺めて東北の春を名残惜しんだ。
さて,帰りはどうしようかということになった。5千円超の高速料金がちょっと気になり,下道を矢吹,矢祭,那珂と走って常磐道で帰るコースをナビゲーターのカミさんが見つけた。R294の起点から白河までは信号が数えるほどしかなく,快適だった。途中でナビがR294を茨城街道と表示したのには二人ともちょっと驚き。高速道よりも1時間弱を要して自宅に帰りついた。東北の春もおしまいだ。