5月 232009
 

第38回東京→糸魚川ファストランに参加した。前日は15時まで仕事があったが,終わってから押っ取り刀で八王子に駆けつけた。すでに始まっていた前夜祭に何とか間に合って,メンバーに紹介された。なにせ,このイベントには初参加なのだ。

この東京−糸魚川ファストランは新潮文庫の竹内真の「自転車少年記」に八海ラリーとして書かれている。自転車で太平洋の水を日本海に運んで注ごうという夢物語のような発想が現実となったものだそうだ。東京八王子の高尾山口駅を出発して,国道20号(甲州街道),国道19号,糸魚川街道を走って日本海の夕日を眺めようというイベントだ。290キロの距離を半日かけて走ることになるだろう。

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我が糸魚川チャレンジ隊はライダー9名にサポーター1名の10名である。半数は55歳以上のおじさんである。前夜祭が終わったのは19時であったが,ベッドに入っても興奮して目が冴えて眠れない。とうとう起床時間の午前2時になってしまった。一睡も出来なかったが,体調は決して悪くない。天候も曇り/晴れの予想である。サポーターの話では甲府辺りが向かい風である。草木も眠る丑三つ時の2時半にホテルロビーに集合して,スタート地点の高尾山口駅に輪行,自走組に分かれて出発した。真夜中だというのに高尾山口駅は煌々としていてライダーが集まっている。ちょっと肌寒いのかそれとも興奮でか身震いする。そうこうするうちに現地集合のメンバーが来て,糸魚川チャレンジ隊が揃った。

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自分のスタート時間は4時15分と他のメンバーよりも15分遅いのでメンバーを見送ることができた。4時15分にスタートして甲州街道に入ったと思ったらすぐに大垂水峠への登りである。ここを自重しないと後でタレる,と言われていたのでゆっくりウォームアップを兼ねて登っていく。鳥たちも目覚めたのかさえずりながら声援を送ってくれるような中をハァハァと登る。下りに入り左手に相模湖を望みながら朝が明けていくのを体感する。やがて,メンバーを一人,二人とパスして笹子トンネル手前の第1チェックポイントに到着した。するとメンバーが休息を取っていて,早くも追いつかれたかという表情が見える。主催者が準備してくれたバナナとチョコを食べてメンバーを置き去りにして早々にスタートした。これがタイムを縮める策であるが,反面のリスクは疲労である。

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下り基調の甲府の街中を快調に飛ばしていくが,ちょっと肌寒く途中の路地に入ってトイレタイムとした。再びスタートすると,レレレッ,前方にメンバーが見えるではないか。ちょっとのトイレタイムの間に抜かれてしまったのだ。ここで,予想通り向かい風になり,富士見峠へのだらだら登りが辛くなる。風が無ければ20km/h辺りでいけそうな緩やかな登りなのだが,15km/hを割ることもあった。そのうえ,下りになっても25km/hが出せないくらいの向かい風だ。韮崎の第2チェックポイントでおにぎり,いなり寿司を食べていると再びメンバーと一緒になった。ここでもメンバーに先行してスタートして,向かい風の中を塩尻峠に向かう。塩尻峠に向かう彼方の雪をかぶった南アルプスの山々を眺め,きれいな釜無川の流れの脇を淡々と走っていく。

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向かい風さえなければ諏訪湖をのんびりと眺めながら走れるのに,と風を恨んでみても始まらない。諏訪湖を通過するのは,中央高速で乗鞍マウンテンサイクリングに向かったときと美ヶ原マウンテンサイクリングで通過したときくらいだ。クルマで来た場所をいまや自転車で通過しているのだ。塩尻峠までの道は小判鮫戦法で風よけしながら走らせてもらった。登りに入ってからは先行させてもらい峠を過ぎて第3チェックポイントに到着した。想像したほどの劇坂ではなかったがやはり心臓はパクパク状態だ。

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ここで完全にサポートカーに先行したので,打合せ通りに到着の携帯メールを入れた。エネルギーを補給しなければ次のチェックポイントまで保たないのは分かっているが,どうにも食欲が湧かない。無理矢理にいなり寿司とバナナとポカリスェットを補給して出発した。つぎのチェックポイントまでは78キロの長丁場であったが,はたしてエネルギー切れになりそうになった。ポケットのバナナを2本食べて,自販機のジュースを補給した。風は相変わらず向かい風だ。この辺りから完全に一人旅になる。初参加で道も不明だが,とにかく視野の範囲に先行するライダーを置きながら,彼(彼女)を目標に走り続けた。やがて,眼前に北アルプスの白馬岳が雲の合間に見えてきた。昨年の夏は新宿を夜行バスで発って栂池から望んだ白馬である。何と言うことだ,ここまで自転車で来てしまったのだ。

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ほうほうのていで最終チェックポイントの白馬に到着した。ここまでの時間と残された距離を勘案すると,どうやら目標とした12時間以内は無理そうだ。お腹も少しゴロゴロいっているので,大のトイレタイムをとった。すっきりした気分でともかくも出発した。ここからは下りで快調に小判鮫戦法で進んでいった。が,数え切れないほど(ほんとうは数えられるのだが,走っているときはこんな風に感じた)のトンネルを抜ける内に前輪から異音がし出した。止まって点検してみてもホィールが割れているような箇所はみあたらない。そこで小判鮫戦法は諦めてペースダウンして完走狙いの安全策に戦法を切り替えた。一人旅でようやくトンネルをぬけて糸魚川の街が見えてきたがもはや12時間は切れないと諦めた。ところが,係員が曲がれと言う合図を出してきたのに出くわした。曲がってみると,何と言うことかそこがゴールのホテル糸魚川で あった。時計をみれば16時5分ではないか。サイクロコンピューターは走行距離284.08km,11時間50分のタイムを示していた。

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まずはビールで乾いたからだを潤した。しかし,サポートカーにはるかに先行したので肌寒くなった夕暮れの気温に対するウィンドブレーカーも無いし,運動靴もない。1時間を過ぎた頃にサポートカーから連絡があり,我が隊の5名はリタイヤし,うち一人はすでに帰宅したとのことであった。そうこうしているとメンバーが一人,二人,三人とゴールしてきた。57歳から67歳の爺さん連中だけが完走したという結果となった。

風呂に入って汗を流して糸魚川の街に繰り出した。有名な寿司屋で地元のおまかせ寿司をたべながら後夜祭が始まった。ビールをお代わりする者もなく,腹を膨らせるとすぐにホテルに戻り全員が爆睡した。翌朝,隣のいびきで目が覚めた。そのことを話すと,自分の寝言も酷かったそうである。昨日のファーストランで消費した7,281kcalを取り戻すかのようにバイキング形式の朝食をたっぷりと取った。帰路は再び自転車で帰るというすごいメンバーもいたが,自分はサポートカーで我孫子まで連れて行ってもらった。初参加の自分をサポートしてくれたメンバーに感謝しきれないほどである。スタートした人数は529名,完走者は397名と言うことだ。
そう,そう,観音様のご加護にも感謝しなくては。ポケットに忍ばせた般若心経の経典こそ取り出さなかったが,塩尻峠を登れたのも心経を唱えながらペースを刻んだお陰だろうか。