4月 192016
 

2011年3月11日の東日本大震災からの復興に資するため環境省がグリーン復興プロジェクトの一つとして青森県八戸市〜福島県相馬市をつなぐ全長700kmの歩く道「みちのく潮風トレイル」の設定を進めている。2013年には青森県八戸市〜岩手県久慈市の約100kmが,2014年には福島県新地町福田〜福島県相馬市松川浦,2015年には岩手県岩泉町南部〜岩手県宮古市中部,岩手県野田村〜岩手県普代村,岩手県釜石市〜岩手県大船渡市南部の区間が開通している。

この,みちのく潮風トレイルを歩いているという女子のブログをカミさんが見つけて「行ってみたいねぇ(*^_^*)」という。自分はドイツ自転車旅を続けたく,ドナウ川(ドナウエッシンンゲン〜パッサウ)・エルベ川(ドレスデン〜ハンブルグ)自転車道を立案した。が,2015年のフランス・パリに続いてベルギー・ブリュッセルでもテロ事件が起こってしまった。その上,ドイツでは移民・難民問題が揺れ動きケルン暴行事件も起きてしまった。これらのニュースがドイツ自転車旅への情熱に水を差してしまった。

それで思い切って,今年のドイツ自転車旅は断念してみちのく潮風トレイルの八戸〜久慈を通しで歩くことを決意した。どうせやるならばテントを担いでキャンプ場を泊り歩こうということを相談して,テント・寝袋・マットレス・大型リュックサックなどを揃えた。時は春,東北の桜と海産物を愛でようと4月19日〜24日でみちのく潮風トレイルの始めの100kmの旅に出発した。八戸〜久慈のみちのく潮騒トレイルの種差・階上海岸,階上岳,陸中海岸北部は,2013年に東日本大震災により被災した三陸地域の復興に貢献するために創設された三陸復興国立公園となっている。

第1日目(2016年4月19日 曇り)青森県八戸市鮫町〜八戸市種差海岸(10.1km)

上野発8時46分のはやぶさ7号に乗り,八戸駅で八戸線に乗り換えて正午ちょうどに鮫駅に着いた。ジョーズの口から顔を出して写真を撮るのがお約束だそうだが大きなリュックサックが邪魔して中に入れない。

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満開の桜を眺めながら蕪島に向かう。海に浮かんでいるのはウミネコだ。ここ蕪島はウミネコの繁殖地だが,その時期にはまだちょっと早いようだ。おかげで爆弾投下の被害に遭うことはなかった。第二次大戦前の蕪島は完全な離島だったが,戦時中に軍事施設とするために埋め立て工事をして陸続きになったという。伝え聞くところによれば特攻艇震洋の格納庫があったとか,と蕪島休息所の職員さんが話してくれた。

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島には蕪島神社が祀られていたが2015年11月の火事で焼失してしまい,臨時の社務所が休息所の脇にあった。ここで宮司さんにスタンプ帳をいただいて,みちのく潮風トレイルのスタートの標識を後にした。ウミネコもBon voyage, Gute Reiseと啼いてくれた。

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水産科学館の脇から波打ち際に降りていく。この辺りは高波になったら危険で歩くことはできないだろう。幾つかの浜小屋の間を抜けて歩いていく。ちょっとした高台に奇妙な石柱が現れた。以前は6本あったというこの石柱は船が海上からこれを見て速度を測るのに用いたらしい。八戸線の向こうには鮫角(さめかど)灯台が見える。やがて第2のスタンプ設置ポイントのホロンバイルに着いた。ここのソフトクリームは濃厚で本当に美味かった。海岸の葦毛崎(あしげざき)展望台は中世の要塞のようだ。近寄らずパスして先に進んだ。

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種差海岸遊歩道を歩いていく。もう少し遅い時期にはこの辺りは花の渚となるという。

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カミさんが見たかった東山魁夷の「道」のモデル地を気がつかないないまま通り過ぎて大須賀海岸に出た。地図によるとここらは砂浜を歩くらしい。始めは,TVに出てくるような流浪の旅の場面を想像しながら気分を出して歩いた。それもそのはず,ここは鳴き砂で知られている砂浜で,そのためか,TV・映画のロケも数多く行われたそうだ。しかし,靴に砂が入ってきておまけに雨が降ってくるようになって,鳴き砂どころかこちらが泣きたいくらいにイライラするようになった。寝袋を濡らさぬように雨支度をしてさらに歩を進める。この雄大な大須賀海岸は離岸流が強く遊泳禁止になっている。

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砂浜が終わって松林を歩いて行くとまたまた白浜海水浴場の砂浜だ。白浜漁港を過ぎると,海中に大きな岩(白岩)が見えてきた。名前の由来はウミネコの糞で白くなっている岩ということなのか。

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淀の松原を通過すると目の前に緑地が現れた。ここが種差海岸の天然芝生地で今夜の種差キャンプ場だ。1時に蕪島をスタートしてから4時間半,10kmの道のりだった。初めての重荷(テント,寝袋など)を担いでの歩きは肩,腰に効いた。

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キャンプ場の管理人さんに会えたので1500円也の使用料を払った。この頃には雨は止んでいたので,近くにある種差海岸インフォメーションセンタに足を伸ばした。ここでスタンプを押してもらうと,八戸区間を完歩したということでバッジと完歩証を発行してもらった。食堂,食料品店などを探しながら種差海岸駅に向かった。今夜は暖かいラーメンでも食べようか。

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キャンプ場に戻って,明るいうちに,テントを張ることにした。買ってから自宅で設営をしてみたので,戸惑うことはなくスムースに張れた。どうやら宿泊者は我々だけらしい。

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さて,寝場所が確保できたので夕飯でも食べに行くか,と先ほど探しておいた食堂に行くと6時だというのに閉まっていた。通りかかった婦人がパンの袋を持っていたので,どこで買えるのか尋ねた。昼間の内に車で販売に来たものを買ったということだ。このあたりには食料品店はなく雑貨屋で菓子パンくらいしか売ってないだろう言う。そして,よければこのパンを分けてやろう,と申し出てくれた。しかし,我々は食料を持たないわけではないので,このありがたい申し出を丁重にお断りした。本当に親切な申し出であった。そこで,観光協会を兼ねた雑貨店でカップ麺とビールを仕入れた。今晩はこれで我慢することにしよう。

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第2日目(2016年4月20日 晴れ)八戸市種差海岸〜階上岳つつじの森キャンプ場(25.2km)

5時に起きて日の出を迎えた。我々にとっては文字通りの初日の出である。昨夜はキジがケンケンと啼いて賑やかだった。朝になって食事を始めるとウミネコがニャーニャーと鳴きながら餌をねだりにきた。

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寝袋,マットレス,テントをたたんで8時前に種差キャンプ場を出発した。

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北須賀海岸の砂浜を歩き,高岩展望台に向かう途中にシロバナエンレイソウを見つけた。高岩展望台からは昨晩のキャンプ地の種差海岸が彼方に望める。からだが温まってきたのでダウン,タイツを脱いで軽装になる。このあたりの標識は「うみねこライン」とあった。もともとあったこの遊歩道をみちのく潮風トレイルに取り込んだのだろう。

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トレイルや一般道の曲がり角に控えめに建つみちのく潮騒トレイルの道標を注意深く探しながら進んで行く。これが曲者で,うっかりするとトレイルを外し兼ねない。大久喜漁港をぐるっと回ると幕末期の浜小屋(国指定重要有形文化財)があった。中には漁撈用具があるらしいが見ることはできなかった。

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県道1号線を延々と歩き階上(はしかみ)駅に到着した。新しい駅舎の前にかつての駅舎と腕木信号機が展示されていた。さてっと,ここら辺りでお昼を食べようと思ったが,階上駅前商店街はシャッターが閉まり人通りはない。駅で地元の方に話を聞くと国道45号線を行った階上町役場の近くにスーパーマーケットとレストランがあるという。役場はトレイルからそれたところだが仕方ないのでR45を役場に向かうことにする。

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国道45号線の脇道にみちのく潮騒トレイルの道標を見つけた。これから向かう役場の先でR45はトレイルに合流するのでレストラン探しを続ける。と,標識から数メートル先のR45の脇にレストランを発見した。「この先はどうなるか分からないから食べちゃおう」と入った。注文したラーメン&カツ丼とラーメン&チャーハンのボリュームは半端じゃなかった。

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なんとかメニューを平らげて,先ほど目をつけておいたトレイルの標識に戻って田園の中の新興住宅地を歩き続けた。道端には満開の桜,コブシ,カタクリ,フキノトウやハナモモだ。東北の春の真っ只中を歩いて行った。

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トレイルが脇道に入ると目の前に巨大な樹木が現れた。樹齢300年と言われる栃の木だ。

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その先で再び脇道に入って熊野堂を目指すがどこにあるのか分からない。こういうことをこのトレイルで何回か経験した。まぁ,昨年は本家本元の熊野本宮大社を訪ねたから良かろう。迷った脇道から一般道に出たら,そこが階上岳鳥屋部(とやべ)登山口だった。フォレストピア階上でスタンプを押して,アイスクリームを食べる。昨日も今日も美味しいソフトクリームに出会えた。時刻は3時。ここから4キロほど山登りをしなければ宿泊地のキャンプ場にいけないことを考えるとウンザリする。フォレストピアでビールを仕入れて出発した。

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ドッコイセと重い腰を上げて登山口から階上岳に向かう。傾斜は思ったほどキツくはないが,それでもテント,寝袋,食料など今までの登山では体験したことのない重さが肩と腰にかかってくる。1時間ちょっと登ったところでキャンプ場の標識が現れた。

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半信半疑で道標の示す方に向かうとそこに階上岳つつじの森キャンプ場があった。階上岳の7合目とあるキャンプ場はGPSでは563mの標高を示していたので410mを登ってきたことになる。やれやれ,お疲れ様でした。

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カミさんはオートキャンプサイトにテントを張ろうというが,オープンサイトの方が風除けになる壁があるのでそちらにテントを張ることにした。予想したように,我々の他にキャンパーはいないようだ。しかし,あらかじめ階上町役場に使用料を振り込んでおいたので,キャンプサイトは電気も点いたし,水もトイレを使えるようになっていた。

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夕食のメニューは持参したアルファ米の山菜おこわと五目ごはんと,もちろん,ビールだ。眼下には,意外にも,たくさんの町の灯りが望めた。天空には大きな月が架かっていた。この日の夜中に強い風が吹き,風除けの壁際にもかかわらず,テントが吹き飛ばされるかと思ったほどだった。

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第3日目(2016年4月21日 晴れのち曇り)階上岳つつじの森キャッンプ場〜マリンサイドスパたねいち(22.1km)

 5時に起きて,前夜の残りの山菜おこわにスープを混ぜて朝食をとる。まだ強い風が吹く中でテントを撤収して7時半には階上岳つつじの森キャンプ場を出発した。昨夜の強風でカミさんはほとんど寝付かれなかったそうだ。ということもないのだが,階上岳の山頂(739m)征服はあっさりと諦めて下山することにした。歩き始めるとすぐに石ノ倉展望台に向かうトレイルが見つかった。展望台から見る階上海岸は煙っていた。まずはあそこまで降りてうまい昼メシを食べよう。

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展望台から降りると階上岳町営放牧場だ。もう少ししたら牛が上がってきて,そしてまた美味しいソフトクリームにありつけるだろう。

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放牧場のアンテナの陰にはまだ雪が残っていた。町の遥か向こうの雪を戴いた山は岩木山じゃなかろうか,とカミさん。

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林道を下って行くとキクザキイチゲやエンレイソウが出迎えてくれた。

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寺下の集落に入って出会った地元のお百姓さんと立ち話をした。放牧場にはどれくらいの牛が上がってくるのかと訊いたところ,「あそこは町から個人が買い取った。5月になっても5頭も上がれれば良い方だよ」と教えてくれた。そこから程なくで寺下観音に到着した。寺下観音は奥州南部糠部三十三観音霊場の第1番札所になっているという。境内には鐘つき堂の他に西国三十三観音霊場の観音像が祀られている。

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駐車場の脇にはスタンプを設置してある観音茶屋「東門」があったがオープンは11時ということで残念ながらスタンプはゲットできないかと思った。が,ちょうど開店を準備する店の人に出会ってスタンプを押すことができた。観音様のご利益だ。ここで缶コーヒーを飲んで,しばしの休憩をとった。

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寺下観音を発って一般道を下っていると道路脇の雑木林でガサガサ音がする。すると鉈を手にした人が現れた。聞けばクロモジの樹を切って乾燥,細断して薬種問屋におろす仕事をしているそうだ。ここでも年寄り夫婦がテントを担いで歩いているのを好奇の眼で見られた。その視線の先にはマルバスミレが咲いていた。

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トレイルは脇道に逸れ,茅葺屋根の民家を見せたり樹齢1000年という大銀杏を見せてくれたりする。

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国道45号を渡ったJR八戸線の高架橋からはまっすぐに伸びる線路を見ることができる。

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ようやく小舟渡漁港に降りてきた。ここら辺には民宿が経営する食堂があるはずだ。お昼が楽しみだ。と,思って探し当てた食堂はシャッターが閉まっていて,民宿は,玄関が開いているが,呼べども誰も出てこない。スタンプ設置所の野村酒店に行って聞いてみたが,埒があかない。シーズン前だからこんなものだろうか? 数日後のゴールデンウィークにはどうだろうか? ビールを買って,手持ちのスパゲッティを茹でて食べることにした。春とは言え,東北はまだ寒い。気温は10℃そこそこか,ガスコンロの炎が弱い。やはり寒冷地対応の高カロリーのカートリッジを持ってくるべきだったと悔やんだ。荷物をまとめるときにGPSの電池が切れていたことに気がついた。どこからログが途切れたのだろうか。

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階上灯台に向かう途中で窓から顔を出した婦人と立ち話をした。「遅くなりましたが5年経ってようやくお見舞い,励ましに来ています」と挨拶をすると,ここでも歳を聞かれる。やはり,みちのく潮風トレイルは若者向けのものだろうか?

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階上灯台は,7月下旬のいちご煮祭りの会場となるらしい。いちご煮とはこの辺りの伝統料理でウニとアワビの吸い物だそうだ。灯台の遊歩道が途切れたところにあった小川の端には青森県と岩手県の県境を示す石碑(昭和26年建立)があった。この小川を跨げば岩手県だ。

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どこまでも続くソーラーパネルを横目に一般道をトボトボ/ヨロヨロと歩いて行く。角浜漁港を通過すると学校があった。説明板を読むと,種市(たねいち)高校で,そこは「南部もぐり」という潜水技術を教える国内唯一の高校だとある。

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サケ・マスが遡上するという川尻川を渡り昭和8(1933)年の川尻津波の供養塔に出会う。このような供養塔,記念碑はこの先の旅で何度か出会うことになった。

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やがて,潜水ヘルメットの形をした公衆トイレがある種市駅についた。ここは駅員さんがいる,これまでと比べて大きな駅だ。今夜はここから少し先の種市海浜公園のキャンプ場で泊まる予定だ。事前に予約しようとしたら,まだオープンしてないのでトイレも閉鎖中なので300m離れたトイレを使わなければならない,と言われちょっと消極的になっていた。そこへきて,今晩の天気予報は雨である。2日のテント泊で疲れが溜まっていて,まともな食事もしたいし風呂にも入りたいとの意見が一致して近くの宿を探した。しかし,またもや民宿には電話がつながらない。だが,小舟渡で立ち話をした婦人が言っていた「マリンサイドスパたねいち」に連絡を取って宿を取ることができた。やれやれ今夜は畳で寝られそうだ。

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スパたねいちで部屋の準備ができるのを待つ間に,街中のスーパーで明日の食料を調達した。できれば洗濯をしたかったので,スパたねいちのフロントに相談してみた。作業室の従業員さんを紹介してくれて,そこの洗濯機を使わせてもらった。従業員さんはとても親切で「お風呂に入っている間に出来上がりますよ」とスイッチを入れてくれた。

ゆっくりと太平洋を眺めながら温泉に浸かってこれまでの旅の垢を落とした。エレベーター内の張り紙を見ると,みちのく潮風トレイルの参加者は宿泊料を割り引く,とあるではないか。フロントに申し出て,これまでのスタンプ帳を見せて一人1,500円を割り引いてもらった。もちろんこの割引料はそのままに生ビール代に廻した。しばらく食べてないせいか,それとも本来の味なのか,ご飯が美味かった。

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第4日目(2016年4月22日 晴れ)マリンサイドスパたねいち〜北侍浜野営場(32.2km)

 5時に起きて朝風呂を浴びる。残念ながら太平洋からの日の出は雲が多くて拝めなかった。次に風呂に入れるのはいつのことだろう? 荷物をまとめて朝食を取る。昨晩に続いて米がとても美味い,思わずのお代わりだ。

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8時にマリンサイドスパたねいちを発った。海岸沿いの道を種市海浜公園に向かう。途中の種市漁港は5年前の東日本大震災の津波に完全に飲まれてしまったそうだ。幸いなことに,スパたねいちは開業前で客は入っていなかったが,津波はベランダの高さまでに押し寄せたと言う。

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まだオープンしてないひろの水産会館を通り過ぎて種市海浜公園に向かう。広々とした砂浜に立派なシーサイドハウスを備えている。夏には大賑わいになるだろう。泊まる予定だったキャンプ場は,やはりオープン前で,トイレも閉まっていた。隣のシーサイドハウスのトイレも閉まっていたので,確かに300m先の駐車場まで行かなければならなかっただろう。キャンプ場の先に見える窓岩を遠望してトレイルに戻って,先に進むことにした。

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時計を見ると8時40分だ。あと20分も待てばスタンプを設置してあるひろの水産会館がオープンする。ここの名産のウニにちなんでウニーク(UNIQUE)の愛称で呼ばれている。ここまで来るともはやスタンプ集めはマストになっている。水産会館内の海産物直売所で海産物をお土産にして送ろうと思っていたが,9時にはまだオープンしてなかった。会館の隣には「うにの栽培魚場センター」があった。大きな水槽がいくつも野外に並んでいる脇を通るトレイルに再び戻って先を急いだ。

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鹿糠漁港の手前で,何か削られているトレイルの標識を見つけた。これはトレイルのミスを示しているのだろうと思い,そのまま直進すると漁港の先は行き止まりになっていた。漁師さんに聞いてみると,やはり,先ほどの標識が正しいことがわかった。誰が,なぜあんなことをしたのだろうか?

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靄っている一般道を20分ほど進むと新しい道路ができていた。地図にはないが大丈夫だろうと進む。秋にはサケが遡上するという和座川にかかる橋が新設されたのだ。川の水は澄んで良い景観を提供していた。

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陽が差して暑くなってきたので道の脇の玉川集落センターの玄関前で休憩をとった。そこをハイキングの格好をした3人連れの若者が挨拶をしながら通って行った。このトレイルで出会った初めてのハイカーだった。

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トレイルは我々を海岸線に導き,目の前に太平洋を一望させる場所に連れ出した。すぐ脇には小さな農場があり,牛が草を食んでいた。実にのどかな風景だ。肩・腰の痛みもしばし忘れた。

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その先で出会ったT字路にはトレイルの標識が見当たらない。脇道の方が細くなっているが「どうもこちらの方がトレイルらしい」とカンの冴えるカミさんが言う。地図を見るとトレイルの左は樹林で右は民家がある未舗装路である。そちらの方向に歩を進めることにした。

海が望める松林の中にシイタケの原木栽培が出てきた。「こんな潮風が当たるところでシイタケが栽培できるのかねぇ」と話しながら進むと,軽トラのおじさんが声を掛けてきた。例によって,何で歩いているのか,歳は幾つだとあれこれ聞かれる。荷台にはシイタケが積まれていたので,先ほどのシイタケかと納得する。おじさんは東北弁で話す上に歯が抜けているので半分くらいしか話がわからない。しかし,荷台のシイタケを好きなだけ持っていけ,と袋にいっぱいの厚手のシイタケを分けてくれた。おじさんはこのあたりのシイタケ栽培農家だそうだ。今日のキャンプ場で焼いて食べようとお金を払おうとしたが受け取らない。ありがたく頂戴した。

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宿戸(しゅくのへ)漁港の向こうに見えるのはウニの増殖溝だろうか? ここから海岸線を離れ内陸に入り,

,退屈な,国道45号線を歩かされる。

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そして再び海岸線に近づくと八戸線に沿うようにトレイルは続く。浜と道路を結ぶ大浜通踏切がある。今は何に使われているのだろうか。ここで八戸線の列車が通れば良い絵になるのだが。そのすぐ先の道端には昭和8年の津波の記念碑が建てられていた。

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トレイルが再びR45に合流したところにコンビニ風の酒屋Big-In 29があったので,ここでコーヒー&ドーナツとお握りを買ってランチとした。食べている間にフッとこの近くのスタンプ設置の酒屋を思い出した。Big-Inの店員さんに聞いてみると,ここから10分ほど戻ったR45沿いにある,という。お握りもそこそこにカミさんのスタンプ帳を持って駆け足でスタンプを押しに行ってきた。これでここまでのスタンプが完全に集まった。

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陸中八木駅も桜が満開だ。トレイルが少子内集落に入る手前にも昭和8年の津波記念碑が建てられていた。地震があったら津波に注意,津波が来たら高台に,危ないところに家を建てるな,と教訓が刻まれている。にも関わらず…

記念碑の近くには,大正9(1920)年に柳田国男が泊まった清光館という旅館の跡地がある。柳田国男が再び訪れた時には清光館は津波に飲まれて無くなっていた。その人生の無常を「清光館哀史」に表したという。

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トレイルはR45が大きく左にカーブする手前を海岸方向に逸れる。その先には防潮水門がありそこを乗り越えて砂浜を歩くようになっている。高潮の時は通行できないようなトレイルだ。上にあがるコンクリートの坂があったので,踏み込むと踏切があった。

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そこは東日本大震災の津波で押し流された有家(うげ)駅だった。ホームには新しい駅舎が再建されて,待合室には訪問者がメッセージを残した「有家駅ノート」が置いてあった。

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有家駅から内陸に入り,またまた,R45に出る。有家川に架かる有家大橋を渡る頃は疲れが溜まって来て足取りが重くなってきた。スパたねいちを出てから4時間半になる。

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R45を離れて集落にはいりこむと神社があった。中野熊野神社だった。その先の大きな雑貨店で人が呼んでいるので行ってみると,そこがスタンプ設置所のフレンズショップおーくぼだった。ここがトレイルの広野町j部分の最終地点なので,完歩証とバッジをもらった。そういえば階上町の最終地点の酒屋さんのおじさんは何も言ってくれなかったなぁ。

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アイスクリームで疲れを癒して,三たび海岸線へ向かうトレイルに入った。

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海岸線に出ると,ここまでの疲れも少しは癒されるような,素晴らしい景色が広がっていた。このトレイル部分では荒々しい太平洋を幾度となく見ることになった。

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八戸線の脇の岩に何か四つ足動物の影が射したので上を見たら,サルではなく,カモシカがこちらを伺っていた。線路のすぐ脇には民家がるのだが,こんなにも自然が側にあるんだ。

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中野漁港の出入り口には3つの巨岩が鎮座している。その容貌はゴリラの横顔を思わせる。自分には3つの内の一番手前の岩が一番良くゴリラに見えたが,カミさんは真ん中が一番それらしいと言う。この漁港の脇を進むと高家川渡渉ポイントがあった。昨晩の雨は大したことはなかったらしく,水の量は多くない。渡るのは問題なさそうだ。鉄橋をおっかなびっくり渡る。この橋の向こうは久慈市だ。

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渡り終えると急峻な坂が待っていた。背中の重荷が足を運ぶのを邪魔する。が,あたりは一面のカタクリだ。おぉ,エンレイソウだ,ニニンソウだ。おや,コバイケイソウかな,あははぁ,ヤブレガサだよ。

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 春の野草を探しながら桑畑集落に入っていく。と,粒田浜歩道入口に立てられた案内板には「高家川渡渉ポイントからここまでの区間は海岸沿いに変更になった」とあるではないか。高家川渡渉ポイントにはこんな案内板はなかったゾ。

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またまた登りが始まり,トレイルは自然歩道,舗装道路を繰り返しながら続く。この辺りが田子の木歩道だろうか。

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やがて侍石(岩)の案内板に出会った。カミさんは興味ないらしいので自分だけで覗きに行ってみた。あたり一面はは平べったい岩だらけだ。

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だいぶ陽が落ちてきた6時過ぎにようやく今日の宿泊地の北侍浜野営場に着いた。やれやれ今日は10時間も歩いたよ。GPSは32.2kmの距離を示していた。予定では27kmだったが,計算間違いしていたか?

出発前に久慈市役所にキャンプ場のことを問い合わせたが,まだオープンしていないと言われた。案の定,トイレも閉まっている。事もあろうに水も出ないではないか。手持ちの水でレトルトカレーを温め,種市のスーパーで買っておいたパンで夕食をとった。今晩はビールを買い忘れたので,あとは寝るだけだ。

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第5日目(2016年4月23日 晴れ)北侍浜野営場~久慈市内(17.7km)

 昨晩は夜中の3時頃にタープがバタつく音で目が覚めてしまった。風が強くなって張り紐がペグから外れてしまった。起き出して直したが,このときはカミさんも目覚めていたようだ。というよりも昨晩も不眠状態だったらしい。相変わらず「枕」が変わると寝られないらしい。4時半には起床して朝食をとり,テント撤収して6時半にはキャンプ場を発った。

このキャンプ場の下の海岸には岩場海水プールがあると案内板にあった。これが朝ドラ「あまちゃん」で主人公が潜水の練習をしたところだそうだ。漁港の四角い箱のモーターからその向こう側の,今は海水が入ってない,岩場海水プールに海水を汲み上げてプールにするそうだ。

実は,われわれは朝にTVを見るという習慣がないので「あまちゃん」が何のことか知らなかった。数年前に自転車仲間と話したときも「あまちゃんて何ですか?」とチンプンカンプンな話をしたくらいだった。カミさんもテニス仲間に「じぇじぇじぇ」と言われてもキョトンとしていたそうだ。今になってみると久慈市の周りにはこの朝ドラのロケ地があちこちにあることを知らされる。「久慈市に入ったら,あまちゃんを知らないなんて言わないようにしたほうが良いよ」とカミさんに釘を刺された。

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10分ほど歩くとスタンプを設置してある「侍の湯きのこ屋」が見えてきた。ここに宿泊したほうが良かったかな。フロント係が「オープンは9時だが,それまで休息所で休んだらどうか」と言ってくれた。今日の行程はそれほどではないので,のんびりと本を読んだりして2時間ほど休憩した。その間に久慈からトレイル最終地の小袖海岸に行くバスをフロント係に調べてもらった。ここで初めて,小袖海岸が崖の崩落とそれに続く高波によって道路が工事中で全く通れないことがわかった。しかし,バスの時刻表を印刷してくれたので久慈駅で再度,確認することにした。またまた出会えた親切に感謝しながら,ゆっくりと温泉に浸かった。ここのロビーでは携帯電波が届いていたので久慈市内のホテルを予約できた。

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10時に「きのこ屋」を発った。断崖からの太平洋の荒波の景観や神社の傍に立つ東日本大震災の津波到達標識を眺めながら進む。

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横沼展望所からの眺めは壮観だった。もっと晴れていれば,と少なからず悔やんだ。

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潮風にあたりながらトレイルを進んでいく。温泉に浸かって気分爽快なので,眼下に見える景色も一味違うようだ。ハイカーは我々だけなので,この光景を二人占めだ。

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きのこ屋から1時間も歩いた集落で老婦人と立ち話をした。リエさんは「何のために,何故そんな重荷を背負って歩くのか,お金でももらっているのか,どこから来たのか,歳はいくつか」などなどとこれまでと同じような質問した。この地がみちのく潮風トレイルになっていることをよくわかってないのかな? あれこれと愉快な話をして写真を撮って,後日送るとの約束をして別れた。楽しい会話だった。

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ニリンソウの絨毯を登り,倒木をくぐって,キスミレを眺めながら歩く。と,またまた一面カタクリの絨毯に出会う。地面はフカフカで気持ち良く,肩の重荷も苦にならない。

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12時半に本波漁港に降りて,カップヌードルの昼食をとる。

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再び自然道を歩くと,オヤ,珍しい白いカタクリだ。

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麦生(むぎょう)集落から弁天鼻の厳島神社に参拝した。カミさんが参拝を言い出したとは珍しいことだ。満開の桜の鳥居をくぐって樹林の中を歩く。これまでもトレイルのあちこちに「魚つき保安林」の標識があった。沿岸漁業の振興を期待して指定された保安林だ。この厳島神社の周りの森林が木陰をつくって魚を集める,とか,森が風除けになって魚が集まるなどの理由で古来より漁民が森を守ってきたのだろう。しかしその因果関係のエビデンスは確認されてないものの,海と陸の生態系のつながりを示す現象も明らかにされつつある。ということで森林法25条に基づいて指定されたのがこの魚つき保安林だ。ということがWikepediaに載っていた。

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厳島神社への参道は胸突き八丁の激坂を数回繰り返す。なかなか立派な社殿に,今までとこれからの道中の無事を祈願した。

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厳島神社から一般道をしばらく歩くと眼下に大きな港湾施設が見えた。久慈に到着だ。

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階段の途中に東日本大震災の津波の到達地点の標識があった。ここまで津波が来たのだから,下の港湾施設は全滅したのがわかる。港湾施設は久慈国家地下石油備蓄基地,久慈地下水族館もぐらんぴあと工業地帯だ。奇しくも,この日は5年ぶりにもぐらんぴあが復活オープンした日だった。臨時駐車場にもクルマがびっしりと並んでの一大イベントに遭遇した。久慈の皆さん,良かったですね。近くの半崎緑地でしばしの休憩を取ってカミさんは腰と膝にサポーターを巻きつけた。

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さて,久慈市内に向けてもう少し頑張ろう。海岸線を歩いて行くと半崎の野田層群が出現した。3千万年前に形成された地層で火山の痕跡も残されているとある。

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夏井駅を通り過ぎると街中に入る。南部煎餅屋が数軒あり賑やかさがある。ようやく湊橋だ。トレイルはこの橋を渡り小袖海岸へと続いている。我々は明日バスで小袖海岸に行き,そこから逆コースで久慈市まで歩こうと考えているので,とにかく久慈駅を目指して直進した。

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カミさんの腰痛,膝痛がひどくなったところにバス停(下新井田)と出会った。時刻を見ると数分後に久慈駅に向かうバスが来るので,乗ることにした。バスって何と楽チンなのだろう。ホッと安堵する間もなくバスは久慈駅についた。運転手にきのこ屋でもらったバス時刻表を見せて小袖海岸への運行状況を聞いた。運転手さんは本社に連絡を取ってくれて,小袖海岸へのバスは正午に一本あり,そのバスは,通行止の海岸道路を迂回して走るという。さらに海岸道路は歩行者も通れないので,トレイルはバスと同じ山の中の市道を迂回するようになっている,と言う。全面通行止めの解禁は7月20日の17時ということなので,トレイルの続行は次回にして,今回のみちのく潮風トレイルはここで打ち止めとすることに決めた。久慈駅で明日の東北新幹線の切符を予約して,ホテルに向かった。

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予約したホテルを探しているとMTBに乗ったおじさんが話しかけてきた。どうやらホテルは違う方向にあるらしく,親切にもホテルの前まで案内してくれた。このホテルの食事は良いよ,とのコメントまでくれた。5時20分にホテルみちのくに投宿した。

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古い旅館形式のホテルだがとてもフレンドリーだった。確かに,食事のメニューは豊富だ。すき焼き,鮎の塩焼き,マグロ・ホタテのお造り,ウニご飯などに加えてホタテのバター焼きと蕎麦が出てきた。ビールで喉を癒す間にホテルの主人が,壁に貼られた久慈秋まつり,やませ土風館,久慈の気候などを話してくれた。久慈の冬は暖かく10℃くらいだ,と言うので驚いて聞き返すと「マイナスです」とおどけて言うではないか。

GPSの数字は本日の歩行距離は17.7kmで5日間のトータル歩行距離は107.3kmであることを表していた。よ〜く歩きました。

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第6日目(2016年4月24日 晴れ)久慈市内散策

やはり5時半には目覚めてしまった。この旅の習慣ではなく,歳のなせる技なんだろう。7時に朝食をとった。さんまの干物が美味い。身づくろいと荷物を整えて,荷物はホテルに預かってもらうことにした。身軽になってまずは三陸鉄道の駅舎でウニ弁当を取り置いてもらうことにした。ついでにあった「がんづき」なるお菓子を買った。ゴマをまぶした蒸しパン様なもので,ゴマが雁の様に見えるのでその名が付いているという。この地方の名物だそうだ。

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まず,昨晩TVで放映していた巽山公園の桜を見に行こうか。まだ時刻が早いためか日曜日なのだが桜見物客はチラホラだ。公園からは久慈市文化会館アンバーホールや市民体育館が遠くに見える。そういえば久慈は琥珀(amber)で有名だ。それでアンバーホールなんて呼ぶんだな。園内に建つ記念碑は柔道の三船久蔵10段のものだ。ここ久慈市の名士で,この公園の近くには久慈市三船十段記念館がある。

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あれだけ歩いたにもかかわらず,カミさんが三角山展望台に登ろうと言う。長〜い階段を上り詰めた展望台からは久慈市が一望できる。久慈港や昨日通ってきた半崎の野田層群も見える。

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あたりを散策しながら下り,やませ土風館に向かった。ホテルの主人が説明してくれたことによると,やませは春から秋に吹いて海岸の平野に濃霧を発生させる東風のことだ。まず,ここでスタンプをもらった。インフォメーションの係員は,小袖海岸のスタンプもここで押せば達成証明書と踏破証明書を出します,と言う。で,もらったのは証明書,バッジとワッペンだ。

やませ土風館ではお土産をたくさん買った。中でも異色なのは一斗缶に詰まった壊れ南部煎餅だ。これを自分たちと二人の息子たちに送った。

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館内には久慈秋まつりで練り歩く山車が展示されている。この祭りを見に来て,トレイルの続きをやってみたいね,とカミさんと話す。夢,いや,計画は相馬までの残り600kmのトレイルだ。

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駅に戻る途中にあまちゃんハウスがあった。新たにあまちゃんのことを勉強しなくちゃ。

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ホテルに戻って荷物を受け取り,駅でウニ弁当を受け取り12時53分の八戸行きの列車に乗った。隣には三陸鉄道北リアス線の列車が止まっている。これに乗って宮古から盛岡に回っても良かったかな。次の旅はそうなるかな。オヤッ,隣のホームに瀟洒な列車が入ってきたぞ。なになに,東北エモーションだって。降りてきたのは赤ら顔の団体客だ。TVで見たレストラン列車のようで,皆さんワインを聞こし召したらしい。

我々はビールとウニ弁当を食べることにしよう。ムムム,ウニ,ウニ,ウニの弁当ダァ〜。

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12時53分に久慈駅を発った列車の車窓からはこれまでの5日間で歩いた足跡が見えた。有家駅の浜では若者がサーフィンに戯れていた。

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 陸中八木駅ではリゾートうみねこ号と行き違えた。その列車は五能線のリゾートしらかみを思い出させた。最初のキャンプ地の種差海岸駅,そしてこの旅のスタート地点の鮫駅を通過して列車は八戸駅に到着した。あっというまの2時間であった。

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新幹線を待つ間に八戸駅構内を散策した。インフォメーションには八戸三社大祭の山車の模型があり,実物は駅の外のユートリーという建物にあると説明している。そちらを見に行ってみると,久慈に劣らずの壮大な山車だ。この日は暑いくらいの天気になり,スターバックスでアイスコーヒーとお菓子を買い込んで新幹線ホームに入った。

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15時41分のはやぶさ60号で八戸駅を後にして帰路についた。

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5日かけて(正味は4.5日間)歩いた107kmのみちのく潮風トレイルの第1回は終わった。獲得標高2,663mにも達した山あり谷あり,海あり川ありの難儀をしたトレイルも今になれば良い思い出だ。出会って話をした人々にも楽しい思い出を作ってくれたことを感謝している。ありがとう三陸の皆さん。

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