相変わらずCOVID-19の収束の兆しは見えない。茨城県の独自の緊急事態宣言は解除され,中部・西日本の府県の緊急事態宣言も解除された。しかし,関東の都県は続いている。こんな中で淡々と日常生活を送っているが,いささかこの状況に厭きたというのが本音だ。「温泉で手足を伸ばしてノンビリしたいねぇ」とぼやきが,またまた,漏れるような家庭内の会話だ。
「温泉ならば鵜の岬に行ってみないか」とカミさんが言う。日立市十王町の国民宿舎「鵜の岬」は利用率が全国一のために最も予約がとりにくい国民宿舎として有名だ。我らも,ハイキングの帰りなどに,日帰り温泉を利用したことが数度あるくらいで宿泊はしたことがない。ネットで調べてみると,ガラ空きの状態だ。早速に,3月2日の宿泊の予約を入れた。後日,宿から郵便で,夕食のグレードを決めてくれ,と連絡があった。4段階のグレードの中から気前よく2番目のものをえらんだ。別に,コロナ禍の中での我らの先を見越したわけでもないがこのところプチ旅行などの『ハレ』の支出が太っ腹になってきている。まぁ,それだけつつましい日常を送っているということだが。
天気予報は3月2日は大荒れになるという予報だった。1時半に出発して常磐自動車道を日立北ICで降りたところで雨が降り出し,宿のパーキングで本格的にぬれる羽目にあった。宿の玄関前にはドアマンが迎えてくれて濡れた傘の始末を手伝ってくれた。国民宿舎でドアマンに迎えられたのは初めての体験だ。こんなところが全国一ともいわれる人気の所以だろう。
なにはさておき温泉でしょう。8Fの展望大浴場からの太平洋は雨に煙っていて波も高い。ゆっくりと全身を湯に浸して手足を伸ばして目をつむる。湯から上がったカミさんがうつらうつらとまどろむ間に自分は佐々木譲の「抵抗都市」を読む。やがて,お待ちかねの夕食の時刻となって宴会場に移動する。
いつもの発泡酒じゃない久しぶりのビールで乾杯だ。チェックイン時に夕食メニューに追加した,カミさんご所望の,ズワイガニと自分の好みで鹿島灘のハマグリの酒蒸しが並べられている。刺し身のマグロの中トロは絶品といえる味わいだ。シラウオはちょうど今日の新聞の朝刊で久慈港に水揚げされたシラウオの天日干しの記事があったが。この日は生のシラウオで出されている。プリプリの触感でカミさんも堪能したようだ。焼き物のカレイも肉厚で食べごたえ十分だ。自分としては追加料理でマグロのカマの煮付けが食べたかった。が,カミさんが好きでなさそうだし,2人前もありそうなカマの分量をこなすだけの胃袋をもちあわせてないので残念だがパスした。常陸牛のすき焼きは歯で噛まずとも口の中で溶けていくような軟らかさだった。こんなすき焼きを食べた記憶はないかな。カミさんが食べきれなかった常陸牛の半分を平らげてのデザートは,これまた,舌が大喜びしたクリームチーズの味だった。柿はほとんど舌に干渉しなかった。それほどまろやか味のデザートだった。
降り続いた雨は翌朝には止んだ。日立市の日の出時刻の6時05分に合わせて8Fの展望大浴場にいった。しかし,女湯は東向きだが男湯からは上がりきった太陽しか拝めなかった。
朝食の前に宿舎の周りを歩いてみた。10年前の大震災のおりには宿舎下の波打ち際の階段にはここまで津波が押し寄せた証の鋲が打たれていた。宿舎に続く伊師浜もいまでは大きく後退してしまったと聞かされた。
宿舎の裏手の森の遊歩道を行くとは日本で唯一のウミウ捕獲場へのトンネルが設えてあった。ここで捕らえられたウミウは長良川,日田などの鵜飼い匠に供給されるのだ。屋外施設「鵜のパラダイス」でウミウを観賞できるが,以前に足を運んでいるのでパスしてレストラン「しおさい」での朝食に向かった。
朝食は別棟でのバイキングスタイルだった。我らの日常の朝食はパンとコーヒーなので,ホテル・旅館での朝食は和食をとることが多い。ここでも和食を中心にメニューを揃えた。ちょっと甘めの切り干し大根,分厚いサバ・赤魚の塩焼きと定番の納豆で食べた。カミさんが取った目玉焼きがストックの最後だったので自分のは焼き上がりまで待つことになった。しかし,でき上がったらテーブルまで届けると言われて待つことしばし。バイキング形式で料理をテーブルまで届けられたのは初めてのことだった。こんなサービスも「鵜の岬」の人気の秘訣だろう。サービスといい,料理のおいしさといい,確かに人気の国民宿舎であることがよく分かる。食後のコーヒーも旨い。砂糖のスティックには,県下でも名の識られた,サザコーヒーとプリントされている。コーヒーもサザコーヒーなのかな。
チェックアウトを済ませて,かねて調べておいた日立紅寒桜を愛でにかみね公園に回った。日立紅寒桜はかみね公園の頂上駐車場に1本が咲いていた。ここには吉田正音楽記念館が建っている。その裏手のツツジ園にも咲いていた。枝の間からの太平洋とレジャーランドの観覧車を望めた。桜はちょっと盛りを過ぎていたようだったが萼片のあでやかな紅色が青空に映えていた。
かみね公園からは大洗のアクアワールドに回ることにした。お目当てはクラゲ観賞だ。
「このままアクアワールドに入ると昼食の時間にあたるので,途中で食べていきたい」とカミさんが言う。最近のカミさんはお腹が空くと胃がキリキリ痛むというのだ。で,那珂湊のお魚市場に立ち寄った。朝食を腹いっぱい堪能したのだが,マグロの漬け丼には勝てなかった。さすがにご飯は残さざるをえなかった。昼食後は生牡蛎とスルメイカの一夜干しを買った。義姉と息子におすそ分けにしよう。さて,向こう岸に見えるアクアワールドへの橋を渡ろうか。
アクアワールド茨城県大洗水族館は昨年12月にリニューアルオープンしたばかりだ。リニューアルの目玉は「くらげ365」(さんろくご)の大水槽だ。さっそく入場券を買う。入り口には日本一のサメの種類(55種類)の多さの展示を誇るマークが描かれている。
入場すると,ちょうどイルカ・アシカオーシャンライブの時間だったので空いている前の方の3列目の座席に座る。このあたりだとイルカがジャンプしたときに水を浴びせられるかもしれない。イルカの大ジャンプには思わず「オォ〜」と叫ぶほどであった。それほど水しぶきを浴びなかったのは幸いだった。
世界最大級のマンボウやウバザメの剥製を飾る通路を抜ける。リニューアルされたサメの顎骨標本などが展示されたホールに至る。
サメの海ではケージに入って水槽を掃除するダイバーとサメのコラボに「大丈夫かな」と言いながら楽しんだ。日本最大のマンボウ水槽ではノンビリと口を開けて泳ぐマンボウがこちらを見つめてくれた。マンボウ水槽はガラスが厚いせいか写真のピントが今一つだ。
沖縄の海ではチンアナゴや逆立ちして泳ぐヘコアユのユーモラスな姿が見られた。
カミさんは1,2階にわたる出会いの海の大水槽に感激したようだ。イワシ玉にエイが進入するとサァーっと玉がほぐれる様子を厭きずに見ていた。
クラゲ365の水槽はちょっと期待外れだった。照明の色が変わって行くのがかえってクラゲの姿を見にくくしているように感じた。鳥羽水族館で見たように黒バックグラウンドでユラユラと漂うクラゲをじっくりと見たかった。「鶴岡のクラゲ水族館をいちど見てみたいね」とカミさんの要望にはいずれ応えたい。
一通り楽しんで帰ろうかと出口に向かうと,再びイルカ・アシカオーシャンライブの時間だった。今度はちょっと変わったプログラムでレクチャー型のライブということだった。イルカのヒレと後ろ足,アシカのヒゲにまつわるレクチャーにフムフムと頷きながらショーを見入った。
アクアワールドを出て,大洗港の脇にある「めんたいパーク大洗」に立ち寄った。かねふく特製という辛子明太子を製造するところを垣間見ることができた。辛子明太子を買おうかとカミさんに尋ねると「生協でかったものがあるから」とのことだった。九州にいた頃の福岡市の博多柳橋連合市場の原口商店の辛子明太子の味をカミさんと思い出しながら帰途についた。
おいしい料理と楽しい水族館巡りで過ごした2日間のプチ旅行で命の洗濯ができた。さぁ,次はどこで洗おうか。