10月 182015
 

10月17,18日の日程で自転車仲間のWさんが日本百名山に数えられる金峰山(きんぷさん)の登山計画を立ててくれて,みたび我々を誘ってくれた。「山頂付近は森林限界を切って高山ムードがあり,また五丈石が特徴的です。… 比較的楽な山行になります。」という触れ込みだ。オプションで一日目の瑞牆山(難読の山の代表,みずがきやま),2日目の国師ヶ岳・北奥千丈岳も付けるという。

始発の電車で新宿に向かい,7:30のあずさ3号に乗った。

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韮崎駅では今年度のノーベル医学・生物学賞を受賞することになる大村智さんの偉業を讃える看板が迎えてくれた。その裏のサッカーの像はかつての名選手の中田英寿選手の像だろうか。ここで登山隊の総勢7名のクルーが揃った。隊長のWさん,N村さん,S倉さん,N林さんとY田さんだ。Y田さんとは初顔合わせだ。自分と同じくらいの年齢だろうか。

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9時半の山梨峡北交通の茅ヶ岳みずがき田園バスに乗った。気さくな運転手さんが世間話や周りの名所を案内しながら運転してくれた。前回の北岳のバスといい今回のバスといい,山梨の人には本当に親しみが湧く。バスは途中のミサワワイナリー,ハイジの村などに寄り道しながら増富温泉で小休止をした。この先は道が狭くなって離合が難しいのでここで降りてくるバスを待つのだ。あたりはちょうど紅葉の真っ盛りだ。増富温泉の渓谷沿いの紅葉はおもわず歓声が出るほどの美しさだ。大型観光バスが入ってこれないので静かな散策ができるという。

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時間通りに10時45分に,標高1,515mのみずがき山荘に到着した。ここも見事な紅葉だ。山荘で水を補給しようとしたら,有料とのことで富士見平小屋まで手持ちのペットボトルのお茶で我慢することにした。

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身支度を整えて,いざ富士見平小屋へ「アンディアーモ(Let’s go)」。

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自然林の紅葉を掻き分けて登ること小一時間。

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標高1,810mの富士見平小屋に到着した。ここでお昼を摂った。

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エネルギーを補給し終わってN村さんのテントに荷物を置かせてもらって瑞牆山(みずがきやま)に登ることにした。ここでW隊長が「テントを持ってきたのはいいが,ポールを忘れてしまった」と。ヲイヲイ,隊長さんヨ〜。

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ヤナギ坂を下って天鳥川を跨ぐと大きな岩に遭遇した。その姿から桃太郎岩と名付けられている。

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ここから急峻な登りが始まった。大きな岩を跨ぎ,木の階段を上り,鎖に捕まって登っていく。

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大ヤスリ岩で一休み。ガイドブックで読んだ岩だらけの瑞牆山がどんなものかゾクゾクする。

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大ヤスリ岩からぐるっと回り込んで2つばかりの露岩を鉄梯と鎖でよじ登ると瑞牆山の山頂だった。標高2,230mの日本百名山の瑞牆山の山頂は岩畳状になっていてその南側は切り立っていた。カミさんも皆さんも立って歩けないほどの恐ろしさを味わった。

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S倉さんは腹ばいになって眼下の紅葉を眺めている。いゃ〜,スゴイスゴイ。

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西にはさっきの大ヤスリ岩が,北東の方角には弁天岩が聳えている。明日の目標の金峰山は雲に隠れて見えない。

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景観を堪能して,来た道を戻った。これがなかなかの難路だ。登りよりも下りの方が疲れる。

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富士見平小屋の地ビールの文字に誘われて,

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「乾杯〜」。「皆サ〜ン,今日は自分とカミさんの42回目の結婚記念日なので〜す」

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ここでテント組みのW隊長(ポール無しでどうやって寝るんでしょう?)とN村さんと別れて,小屋での夕食をとった。木のお盆に磁器の食器で夕食が供された。地ビールと言い,この食器と言い富士見平小屋はクールだ。キノコなど野菜たっぷりの汁と生野菜が添えられたソーセージは美味かった。

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テント場に戻るとN村さんとW隊長がまだ夕食をとっていた。ここで再びアルコールをいただいた。

8時前には解散して,小屋泊まり組は引き上げた。小屋は雑魚寝なのがちょっと残念だった。これがベットなら良かったのに。

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2日目の朝は晴れ渡り,富士見平の名の通り富士山がくっきりと望めた。小屋の朝食は朝粥と餅だ。となりのドイツのメッチェン(娘)もおいしそうに食べていた。身支度をしてテント場に集合だ。W隊長はN村さんのテントで寝たそうだ。

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6時半に富士見平小屋をスタートした。今日は金峰山に登って大弛峠(おおたるみとうげ)に下る長丁場だ。

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一時間ほどの大日小屋で小休止をとる。

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小屋からは縦八丁の急登が続く。

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上り詰めた大日岩で小休止をとる。ほっとして周りを見渡すと,9月に登った北岳(と間ノ岳)が彼方に見えてきた。右に目を転じれば八ケ岳だ。

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さらに急登して砂払の頭に到着すると視界が開けた。そこから山梨県と長野県の県境となっている岩場の痩せ尾根を進と千代の吹上という岩場だ。その名前の由来は日本アルプス登山ルートガイドによるとこうだ。昔,大工の夫婦が女人禁制の金峰山に登ったが断崖絶壁で妻の千代が滑落してしまった。夫は蔵王権現の祟りと恐れ,山頂の祠で7日間の勤行に勤めた。すると谷底から吹き上がる風に乗って千代が戻ってきた。その千代の吹上の南側(山梨県側)は断崖絶壁で切れ落ちていて,瑞牆山頂と同様に怖い。しかし,そこからの絶景は素晴らしかった。富士山,北岳・間ノ岳,瑞牆山と八ヶ岳が再び一望できた。

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千代の吹上をクリヤーすると行く手に五丈石とその向こうに金峰山の頂が見えてきた。

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しかし,道はまだまだ険しい。我慢して登るとようやくにして五丈石(岩)の下に出た。

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五丈岩と山頂の間で休みを取ろうと思ったが山頂まで進むことにした。五丈石に登ろう,とは誰も言い出さなかった。

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しかし,山頂は団体さんで満員状態だった。まずは標高2,595mの三角点にタッチだ。そして,隙間をぬって素早く写真をとる。「だから言ったでしょ」とW隊長は少々ご機嫌斜めだ。

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山頂から下った賽の河原で休憩をとった。ここからの展望もなかなかのものだ。

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鉄山を巻いて進み平らになったところで小休止をとった。ここでショータイムを取りに林に分け入ったY田さんがよろめきながら手招きをしながら出てきた。行ってみると背中が泥だらけ。聞けば転んで転倒したという。左の腰骨がひどく痛むので骨にヒビが入ったかもしれない,と言う。取り敢えずロキソニン錠を飲ませ,モーラステープを張って痛みをとることに。

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Y田さんの荷物を仲間で肩代わりして朝日岳をそろりそろりと登る。その姿は痛ましいが,それでもY田さんは青ざめた顔で頑張って歩をすすめる。W隊長が,先に大弛峠に行って救急車を呼ぼうか,と聞くが「大丈夫,大丈夫」と頑張る。

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そこへ後続の若者が追いついて,背負いましょう,とY田さんを担いでくれた。中高年の我々ではどうにもならない状況に大いなる天啓だ。

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しかし,おんぶ紐もハーネスもないので若者は腕が疲れて休み休みでないと歩けない。ようやく朝日峠に達して束の間の休憩をとった。大弛峠まであと30分のところだ。

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歩き始めるとさらに後続の若者の2グループがY田さんの怪我を心配してくれて,3人交代で背負ってくれると申し出てくれた。なんと,リュックを上下逆さまにして肩ストラップをハーネス代わりにするという技だ。かなり山慣れた若者のようだ。

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ようやくにして3時半に大弛峠に降り立った。若者たちはレスキュー隊と救急車に連絡を取ってくれていたが,レスキュー隊の方は大弛峠に降り立つことができたのでキャンセルして救急車を待つことになった。病院にはY田さんと家が近いS倉さんが付き添うことになった。

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それでクルーはここで解散して家路につくことになった。Y田さん,S倉さんの他のメンバーはそれぞれタクシーで塩山駅まで降りることになった。ところが,ここで大きな問題が出た。タクシーは全て予約済みで塩山にも余裕のタクシーはない,という。4時のバスに連絡を取ってみたが,こちらも満員で乗れないというではないか。途方にくれたが,カミさんがいち早く近くの自家用車に便乗をお願いに回る。

なんとか2台の車が了解してくれた2グループに分かれて駅に向かうことになった。

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塩山駅まで乗せてもらった我々は5時18分の臨時特急に乗って帰ることができた。

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家に帰ってからのS倉さんからのメールによると,Y田さんは肋骨4本と腸骨が骨折していてしばらく山梨中央病院に入院することになる,という。そんなに重症なのによくも頑張って歩いたものだ。1日も早いY田さんの回復を願う。

2日間で歩いた距離は17.5kmであった。Y田さんを背負ってくれた3人の若者の優しさに感謝するとともに,中高年の体力と登山に対する姿勢を新たに認識しなければならないことを肝に銘じた。

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