10月 162011
 

6月のある日,本屋で暇つぶしをしていたら山積みになった本が目についた。

参考書1

始めの部分をパラパラめくってみたら,ITパスポート試験とは経済産業省が実施する国家試験で,職業人として誰もが備えておくべき情報処理に関する基礎的知識を測るもの,とあった。試験は年2回実施されており,春期試験はすでに終わっているが秋期試験は10月16日ということが書いてあった。リタイヤして2年,もはや就職する気など全くないが,自分のこれまでの情報処理に関する基礎知識はどれくらいかを腕試ししてみようかという悪戯心が湧いてきた。

自分は世界最初の商用計算機 ENIAC(現在はこの説は否定的だそうだが)と同じ年に誕生して,大学の卒論ではカシオの電子式卓上計算機を使ったのが情報処理の洗礼を受けたことになる。その後は大学の助手時代にソニーのSOBAXを使って統計処理をしたが飽き足らず,16ビットミニコンピュータ MACC-7/FでFortranを使い主成分分析をしたことが情報処理プログラミングに関する自分史の始まりだろう。この時期にMACC-7のアセンブラ講習会に参加したこともあった。そこで2進法,8進法,16進法に初めて接した。何せMACC7/FのFortranプログラムを読み込ませるには8進法のアドレスをボタンでセットしなければならなかったのだ。

転勤後は九州大学大型計算機センターのFACOMを音響カプラー(300/1200 baud)とアナログ電話機でTSSで使うという境遇であった。この時代の統計処理には出始めたSASを使っていた。OCRによるデータ入力や磁気テープによるデータバックアップもセンターに出かけて体験した。そのうちにSORD M223(8 bit),同M343(16 bit),同M68MX(16 bit)というマイクロコンピュータを使うようになって,マイコンでオフラインでデータを入力しておいて,カプラーで一括して計算センターに送るという術を覚えた。この頃にインタープリタのPascalやコンパイラのBASIC II,そして表計算ソフトのPIPSを囓った。プロッタによる作図処理プログラムをBASICで書いたりもした。世はNECのPC8800やPC9800の全盛期にSORDのマイコンやFACOMでOSというものを体験したことは後の大きな轍となった。このころにはワードプロセッサが出回り,日本語(漢字)での入出力が出来るようになっていた。MACC-7/F時代の英数字(それも大文字だけ)の世界からは想像も出来なかったことが実現したのには驚くばかりだった。

大学の大型研究費が取れたので,SORD M685(CPUはMC68000)を入れてUNIXにのめり込んだのがこの頃だった。マルチユーザ,マルチタスクは荷が重かったようだが,大型の計算機にはないUNIXのOSとしての面白さに日夜明け暮れたと言っても過言ではなかった。

再び転勤した大学ではMacintoshにお目に掛かった。漢字TALKからOS9,そしてUNIXベースのOS XになってからはもはやMacintoshなくして自分の情報処理は考えられなくなった。お陰で世の中のWindowsユーザからは疎まれるようにもなって現在に至っている。

と,このような自分のたどってきた情報処理の歴史がITパスポート試験でどこまで通用するのだろうか。

参考書を買ったが,読んでみては驚きと自信喪失の連続であった。ITパスポート試験はテクノロジ・ストラテジ・マネジメント系の3部門から出題される。自分がたどってきた情報処理の歴史のほとんどはテクノロジ系であった。ところがストラテジ系での企業と法務,経営戦略,システム戦略の部門の知識は全くの白紙状態であった。ABC分析,損益計算書,労働者派遣法は聞いたことがあるけど,内部統制,SWOT分析は初耳だ。参考書で不明な点はWikipediaにお世話になった。PPMで出てきた負け犬・問題児・金のなる木・花形に至ってはナニコレと匙を投げざるを得なかった。海外旅行のフライト中の時間つぶしに参考書を開いたのだが,CRM,SCMなどなど初めて見る用語に戸惑って,ついつい「こんなの知ってナンボ」,「これが情報処理の基礎知識か」などなどぼやきの連続で数時間を過ごしたこともあった。マネジメント系でも共通フレーム,外部・内部設計などなどまったく初めての領域を体験した。

学生に試験問題を解かせる職業をずっと続けてきたが,我が身をつねって人の痛さを知れ,を実感した。それでもCSRがCorporate Social Responsibilityと分かれば,回答の選択肢から正解を選ぶのはグット易しくなった。テクノロジ系のこの英略語の業界用語はなんとかクリヤできたが,他の2系の英略語は暗記せざるを得なかった。

そうこうするうちに書店の平台に平成23年度秋期の情報処理技術者試験案内書・願書が出てきた。

願書

これでようやく腹をくくって受験する決心がついた。インターネットから申し込みをして5,100円の受験料を振り込んだ。

一通り参考書を読んだので別の参考書を買った。一章を読んですぐの確認テストや関連した過去問はすぐに解けるのだが,数日経ってみると忘れてしまっている。で,カードにメモして手を動かして学習することにした。しかし,キーボードは頻繁に使うが,ペンやボールペンを持つ手がスムースではなく,忘れて書けない漢字も多々あることにまたまた弱気になってしまう。

参考書2

試験の直前にこの参考書の最後にたどり着いた。が,中問という比較的長い問題文を読んで4問に解答する形式のページにたどり着く頃は疲れ果てて頭を使うのも億劫になってしまっている自分に気がついた。リタイヤしての2年の間に,2時間集中して頭を使うことなど皆無だった生活を気付かせてくれた受験勉強だった。

試験場は,試験日の午後に柏で三連勝シニアの記念式典があるので,柏会場を選択しておいた。柏駅から受験会場までは無料の送迎バスが出ていたので利用した。

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当日の受験者のほとんどは若者だった。どこぞの専門学校からの受験生だろうか。年配者は数えるほどしかお目に掛からなかった。自分がこの会場では最高齢だろうか。

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受験冊子が配られて試験が始まった。まずは解ける問題から手を着けていった。「何だ意外に易しいじゃないか」という思いも時間が経つにつれて薄れていった。試験終了まであと30分のところでマークシートに記入していった。が,分からずに放置しておいた問題がかなり残っていることに気付いたが,残り時間はあと15分も無い。エイヤッとばかりにでたらめにマークシートを塗りつぶし終えたら2時間45分の試験時間が終わっていた。時間切れででたらめにマークせざるをえなかった問題は中問であった。あ〜っ,参考書で解いたときは楽々だったのに,と悔やんでもどうにもしようがない。もしも時間がもう30分追加されたとしても,もはや頭は働かなくなっていたので解答できなかっただろう。こんなに頭を使ったのはいつが最後だったのだろうと柏駅に向かうバスの中で考えた。

問題冊子

とにかく終わった。さあ〜て,午後は三連勝クラブ・シニアチーム創立20周年記念式典だ。呑んで喰って騒いで鬱憤を晴らそう。でも,結果の発表はいつだろうか,受かっているだろうか,との思いは頭の隅から離れない… ともあれ,このITパスポート試験を通じて,世の中の会社がどう経営されているのかが分かった。ずっと大学で過ごしてきて,社会・世間を知らずにリタイヤを迎えてしまった。在職中に長のついたいくつかの役を体験したが,その頃にITパスポート試験での知識があったら,もっと上手く役をこなせて行けたかも知れないとも思った。自分が知らなかった世界の入り口を覗けただけでも良しとするか,たとえ不合格となっても。